Andor製品技術資料

4:ICCD検出器

このページでは、ナノ秒オーダーの時間分解測定が可能なICCDについてご説明いたします。

4-1.ICCDとは

ICCD特長

  • ・ナノ秒オーダーの瞬間現象を測定することが可能な検出器である。

ICCD (Intensified CCD、イメージインテンシファイアCCD)は、元々は軍事用途におけるナイトビジョンのために開発されましたが、現在では微弱光測定や瞬間現象を捉える研究で使用されています。

ICCDは、CCD前面のイメージインテンシファイアによって入力光を増倍し、増倍された光をCCDで検出します。入射光の増倍によって相対的に読み出しノイズを除去することができるため、以前は微弱光測定にも使用されていましたが、現在では冷却CCDの高性能化やEMCCDに取って代わられるようになっています。しかし、ICCDはナノ秒オーダーのゲーティング(シャッター)が可能であるため、マイクロ、ナノ秒の時間変化を捉える検出器として現在でも多く利用されています。

ICCDは、CCDの前にイメージインテンシファイアチューブが取り付けられたCCD検出器です。入射光はこのイメージインテンシファイアチューブで増幅され、ファイバーカプラを通ってCCDで受光します。

イメージインテンシファイアチューブの構造は下図のようになっています。まず、入射光は窓材を通ってホトカソード(光電面)で光電子に変換されます。この光電子はホトカソードとMCP入射側間のカソード電圧によって加速し、MCP(マイクロチャンネルプレート)に入射します。入射した光電子はMCPの入力・出射間のMCP電圧によって増幅され、出射されます。MCP内で増幅された光電子は、MCP出射側とフォスファー(蛍光面)間のスクリーン電圧によって加速し、フォスファーに衝突し、蛍光が発生します。そして、この蛍光をファイバーカプラやレンズカプラを通してCCDで受光します。

MCPはガラスでできており、、下図のように細い複数のチャンネルを束にしたもので、それぞれのチャンネルにホトカソードで変換された光電子が入射します。チャンネルは電子増倍器になっており、入射した光電子がチャンネル壁に衝突した時に2次電子が発生します。この2次電子はMCP電圧によって加速され、またチャンネル壁に衝突して2次電子が発生します。この増倍過程が何度も発生することで、大きな増倍率が得られます。

イメージインテンシファイアチューブを動作させるためには非常に早い立ち上がり、立ち下がりのパルス出力が可能な高電圧電源が必要で、Andor Technology社のICCDは、カメラヘッド内に高電圧回路を内蔵しています。 また、瞬間現象を測定するために必須なデジタルディレイジェネレーター(DDG)もカメラヘッドに内蔵しています。ディレイジャネレーターはICCDやレーザーなどと同期をとるために必須ですが、カメラヘッドに内臓しているため、ソフトウェアから簡単に制御することができ、ICCDの動作遅延も35ナノ秒と非常に短くなっています。また、ソフトウェアの簡単な設定で、遅延時間を変化させながら測定することができるため、例えば蛍光寿命の測定などで威力を発揮します。

4-2.ICCDの量子効率

ICCDにおける量子効率は、イメージインテンシファイアチューブ(I.I.)のホトカソード(光電面)の量子効率で判断します。I.I.は大きく分けてGenⅡとGenⅢの2種類があり、GenⅢは特に可視および近赤外に優れた量子効率を持っています。I.I.の選定は、測定波長に合わせて決定します。

GenⅡの量子効率

GenⅡのホトカソードの材質はマルチ(バイ)アルカリで、量子効率は下図のようになります。 GenⅡの量子効率

上記のW型は高速ゲートタイプで、低速タイプの場合は約20%ほど量子効率が高くなります。また、通常の入射側ウインドウは石英であるため、波長180nm以下では使用できませんが、MgF2ウインドウにするとより120nmまで使用することができます。

GenⅢの量子効率

GenⅢは非常に高い量子効率を持っています。ホトカソードの材質はGaAs(ガリウム砒素)で、量子効率は下図のようになります。可視および近赤外の量子効率が高いことがわかります。

GaAsの量子効率が高い反面、MCPなどから発生するイオンフィードバックによるダメージを受けやすいという問題点があります。これは、I.I.内で加速された光電子が、内部の酸素や窒素原子に衝突して有害なガスが発生し、ホトカソードにダメージを与えてしまう現象です。そのため、このガスがホトカソードに到達しないように、VISタイプにはMCP入射面にフィルムを貼っています。しかし、このフィルムの影響で光電子の透過率は低下してしまうため、後述する実効量子効率は低下します。また、フィルムの影響で、増倍によるノイズファクターが悪化します。さらにGenⅡと比較して高電圧でゲートを制御するため、GenⅡに比べて2~3倍ほど最短ゲート時間が長くなります。

一方、I.I.の改良によってVIHやHVSのようなフィルムレスのGenⅢ I.I.もあります。これは、ホトカソード自体の改良と、有害ガスの除去によるものです。フィルムレス化によって、ノイズファクターの低減およびGenⅡと同等の高速ゲートが可能になっています。

実効量子効率

ホトカソードの量子効率は上記のとおりですが、実際の量子効率はホトカソードの量子効率よりも低下します。これにはいくつかの要因があります。一つは、ホトカソードからの光電子は、その70%しかMCPに到達しません。そのため、フィルムレスのGenⅡやGenⅢのノイズファイクターは1.6~2.2程度(参考値)ですが、フィルム付のGenⅢは3.5~4.2(参考値)とさらに悪化します。そのため、ホトカソードの量子効率だけで性能を判断すると問題になることがあります。このノイズファイクターを加味した実効量子効率(Effective QE)は、下式になります。

この結果、GenⅡおよびGenⅢの実効量子効率を大まかに比較すると、GenⅢフィルムレス > GenⅢフィル付 > GenⅡ の順になります。

4-3.ICCDのEBIノイズとSN比

以下にICCD特有のノイズであるEBIノイズと、ICCDのSN比特性を説明します。

EBIノイズ

ICCDを使用する場合、CCDの読み出しノイズや暗電流の他に、イメージインテンシファイアチューブ(I.I.)の暗電流であるEBIノイズ(Equivalent Background Illuminance)が問題になります。EBIノイズは、I.I.のホトカソード(光電面)から発生するノイズで、ホトカソードに光が当たっていない状態でも、ホトカソード自身の熱によって常に電子が発生します。ゲートが閉じている状態では電子がMCPに到達しないため問題になりませんが、ゲートを開くとMCPで増幅され、フォスファーで光に変換されてCCDに到達します。 EBIノイズは暗電流の一種なので、ゲート時間が非常に短い場合はEBIノイズは無視できるレベルですが、ゲート時間が長い、例えばCW光の測定ではEBIノイズが問題になります。 EBIノイズは近赤外に感度があるホトカソードが高くなる傾向があります。GenⅡのWタイプのEBIノイズは約0.02e-/pixel/secondですが、近赤外に感度があるWRタイプでは約0.1e-/pixel/secondになります。

SN比

ICCDは、イメージインテンシファイアチューブで信号を増幅するため、下図のグラフのように、微弱光測定でCCDよりも高いSN比が得られます。

ただし、同じく増倍できるEMCCDと比較するとSN比は低く、特に入射フォトン数が若干多くなるとどの検出と比較してもSN比は低くなります。そのため、ゲートを必要としない連続光の測定ではEMCCDの方が良く、マイクロ、ナノ秒のゲートが必要なアプリケーションでICCDは有効です。

4-4.ICCDの空間分解能

ICCDで画像測定をした場合、空間分解能はCCDやEMCCDよりも悪くなります。また、分光測定でも波長分解能はCCD、EMCCDよりも悪くなります。これは、イメージインテンシファイアチューブ(I.I)内のMCPとフォスファーが原因です。実際に画像を測定すると、左側のCCDによる測定画像よりも荒くなっていることがわかります。

4-5.ゲート時間とIntelligateTM

ICCDを使う上で、どの程度早いゲート時間で動作させることができるかが需要になります。以下で、イメージインテンシファイアチューブ(I.I.)の違いによるゲート時間の差異や繰り返し速度、またAndor Technology社のICCDの特徴であるIntelligateTMについて説明します。

最短ゲート時間

I.I.は、ナノ秒オーダーのゲート、つまり超高速シャッターとして機能します。ただし、ゲート時間がおよそ25ナノ秒を切ると、ホトカソード(光電面)が完全に動作する前にゲートが閉じてしまいます。Andor Technology社のICCDにはパフォーマンスシートが付属しており、設定したゲート時間に対して何パーセントの光が電子に変換されるかが書かれています。 大まかに、GenⅢのフィルムレスタイプは2ナノ秒以下、フィルム付で5ナノ秒程度のゲート時間で動作可能です。GenⅡの場合、ホトカソードの速度が50nsecと遅いものの、金属グリッド(電圧をかけるための配線)をホトカソードに追加して、GenⅢのフィルムレスと同等な2ナノ秒以下のゲート時間で動作させることができます。

フォスファーの種類

Andor Technology社のICCDは、最大50kHzで動作します。ゲートを繰り返し開く測定用途は、例えば時間変化をFast Kineticsモードで高速に測定する場合や、チップ上積算と呼ばれる測定が考えられます。チップ上積算は微弱光測定時に有効な手法で、CCDが露光している間に、同じ遅延タイミングで何度もゲートを開くことで光量を稼いで、SNの良い測定が可能になります。 しかし、高速にゲートを開く場合は、フォスファー(蛍光面)の残光時間が問題になります。Andor Technology社のICCDでは通常P43が使われていますが、残光時間(10%)は2ミリ秒と早くありません。つまり、ゲートを数百Hz以上で開閉する場合、残光の影響で正しく測定できなくなります。そのため、高速にゲートを開閉する場合は、残光時間の短いフォスファーを選択する必要があります。例えば、P46は残光時間が200ナノ秒になります。ただし、エネルギー効率はP43と比較して低くなります。

IntelligateTM

I.I.の消光比は可視光で1×107とされています。しかし、波長が300nmよりも短くなると消光比は低下します。I.Iの種類によって消光比の特性は異なりますが、波長250nmで1×105~106、波長200nm以下では1×105~103程度にまで低下します。これは、I.I.の動作原理による影響です。 下図はI.I.のゲートを閉じている時の状態を表しています。ゲートが閉じている時は、カソードに正電圧を印加することで光電子がMCPに届かないようになっています。ところが、この電圧に逆らってMCPに到達する光電子がわずかにあります。特にエネルギーの高いUVで問題になります。I.Iは、ゲートが閉じた状態でもMCP電圧は印加された状態になっているため、MCPに到達してしまった光電子が増幅されしまいます。そのため、ゲートを閉じた状態でも光がCCDまで届いてしまい、消光比が低下してしまいます。

そこで、ゲートを閉じている間は、MCP電圧を0Vにして完全に光を遮断する方法があります。しかし、ゲートを開く時に、MCPには数百ボルトの高電圧を高速に印加する必要があるため、このままでは高速なゲート開閉ができなくなります。しかし、Andor Technology社のICCDは、MCPに対して高速に高電圧がかけられるIntelligateTMと呼ばれる手法によってこの問題を解決し、UV領域でも消光比が高く、かつ高速なゲート開閉を実現しています。

ゲートモニター機能

I.I.のゲート開閉をオシロスコープで正確にモニターできれば、レーザー等との同期調整がより簡単になります。Andor Technology社のICCDにはゲートモニターと呼ばれる、ホトカソードの開閉タイミングを正確に出力する機能があります。ゲートが開く時に負のスパイク状の信号が、閉じる時に正のスパイク信号が得られます。